本の虫の本

本屋さんでの紙とインクの匂いに癒される本の虫の書評ブログ

『対人関係療法のプロが教える 誰と会っても疲れない「気づかい」のコツ』 水島広子著 (日本実業出版社)

〈気づかいにも二種類ある⁉︎〉

ここ最近、水島広子先生の本を読む機会がありました。この水島先生の著書には以前から助けられていました。対人関係療法の専門家です。心の平衡を保つための実際的なアドバイスが欲しい時には、この精神科医、水島先生の本がとても参考になります。まるで直接カウンセリングを受けているかのような錯覚を覚えるほどの効果があります。

この本もそのうちの一冊でした。誰でも気づかい上手になりたいと願いますが、この本では気づかいには、「元気になる気づかい」と「疲れるきづかい」の二種類あるとされています。

「気づかい」とは本来自然に流れ出るものですが、「疲れる気づかい」というのは、往々にして、相手から、また周りからどう思われるか、という不安がエネルギーになっているそうです。

一方、「元気になる気づかい」は、相手に安心を与えるものだそうです。そしてそうするためには、「自分の領域」と「相手の領域」をきちんと区別すること。つまり、「自分の領域」のことは当然自分にしか分からないように、「相手の領域」のことは相手にしか分からないことを認める、ということです。

どういうことかというと、いくらこちらが「相手の立場」に立って考えたとしても、それはあくまでも「自分が考える相手の立場」に過ぎない、という認識を持つことです。なので、こちらが良かれと思ってしたことが、時に相手にとっては「余計なお世話」になるのです。

「相手について知る」ことは、「相手の領域」に立ち入ることではなく、「相手の領域」について外から見て気づけることにきちんと気づく、ということ。その相手が立てている、いわば「標識」のようなものをキチンと見てあげるということです。

そのようにして「相手の領域」を尊重するならば、相手について「この人はこういう人だ」と、標識を無視した「決めつけ」を避けることができます。

この「決めつけ」というのは、本来分からないはずの「相手の領域」を侵害する行為です。でも、相手をありのまま受け入れる、つまりどんな事情があれ、その人なりに生きてきたという事実そのものを尊重できれば、それは「相手の領域」を尊重することにつながります。

このようにして、「自分の領域」と「相手の領域」を区別することをいつも念頭に置いていれば、相手に変化を強いるような、的はずれなアドバイスをすることを避けられますし、逆に「おせっかい」に思えるようなことを相手からされたとしても、(こういう「疲れる気づかい」をする人は「不安」が原動力になっているので)「お気づかいありがとうございます。大丈夫です」と相手を安心させ、なおかつ「自分の領域」を意識した流し方をすればよいということになります。

「元気な気づかい」の根底にあるのは「相手の領域」を尊重することにある、つまり相手をありのまま受け入れることがカギになってますので、安心を相手に与えることになります。誰でも否定されずにそのまま受け入れてもらえたら安心ですよね。

この本を通して「気づかい」について深く考えさせられました。私の場合、いつしか「周りからの評価」を気にしていることに気づいていましたので、特にこの点が心に刺さりました。そしてその原動力は「不安」。確かにその通りです…。心のベクトルが自分に向いてしまっていました。そうではなく、周りの一人一人をありのまま受け入れて「安心」を与えられる「元気な気づかい」ができるようでありたい、そんなことを教えられた一冊でした。